はじめに

 多くのサプリメントや、成長ホルモンの分泌を促進するとされている物質などが「身長を伸ばす効果がある」として、新聞や雑誌、インターネットで宣伝されています。製品によっては、「成長を促進する」とは明言していないものの、「成長促進に効果がある」と受け取れるような強い印象を与えているものもあります。そのため、本学会員で成長障害の診療に携わる医師が、低身長症の患者さんや保護者から「本当に身長が伸びるのでしょうか」という問い合わせをしばしば受けます。これらの製品には、1.カルシウム、鉄、ビタミンD、亜鉛を含んだサプリメント、2.成長ホルモンの分泌を促進するといわれている物質を含むサプリメント、3.成長ホルモンを含むスプレーなど、があります。
 これらの製品に関して、日本小児内分泌学会としての科学的立場からの評価をおこなった見解を述べます。

1.カルシウム、鉄、ビタミンD、亜鉛を含んだサプリメント

 もし、これらの栄養成分の不足によって成長が阻害されている場合には、これらの栄養成分を補充することで成長が正常化する可能性はあります。たとえば主に乳幼児期に発症するビタミンD欠乏性くる病では、成長障害がおこり、ビタミンDの補充により成長は正常に回復します。しかしこれらの栄養成分の不足がない場合には、これらのサプリメントの投与によって成長促進するという科学的なデータはありません。一方で、多量に摂れば、健康を損なう恐れがあります。カルシウム製剤は、骨を強くする作用がありますが、成長促進作用はありません。

2.成長ホルモンの分泌を促進するといわれている物質を含むサプリメント

 これらの物質のうちで代表的なものは「アルギニン」です。アルギニンはたしかに成長ホルモン分泌刺激試験の薬として用いられています。しかし、分泌刺激試験で用いる場合は、体重1kgあたり 0.5gという量を30分間で直接血管内に点滴で投与します。たとえば体重30kgの子どもであれば15gを投与するわけです。一方、現在サプリメントとして販売されているアルギニン製剤は、分泌刺激試験で用いる1/50-1/5程度と少なく、血中のアルギニン濃度はわずかな上昇に留まると考えられます。従って、アルギニンをサプリメントとして服用しても成長ホルモンの分泌が促進するとは考えられません。たとえ成長ホルモンの血中濃度の上昇が観察されたとしても、本来の生理的変動である可能性が高いと考えられます。そのほか、アルギニン以外に宣伝されている物質に関しても、サプリメントとして投与した場合に成長ホルモンの分泌が促進されたという科学的データが、信頼できる学術雑誌に報告されたことはありません。また、安全性の評価すなわち、健康を損なうリスクについて十分に検証されていないことに注意が必要です。 さらに、たとえ成長ホルモンの分泌が薬剤によって促進されたとしても、成長を促進しないことが、次のように科学的に証明されています。成長ホルモンの分泌刺激作用を持つ「GHRP-2(成長ホルモン放出ペプチド-2)」という強力な薬が日本で開発されました。この薬は、静脈投与による成長ホルモン分泌刺激試験の薬として認可され、臨床の場で用いられています。この薬の点鼻スプレー製剤が開発され、主に成長ホルモン分泌不全性低身長症の軽症または中等症を対象に治験が行われました。軽症の成長ホルモン分泌不全性低身長症は、学問的には成長ホルモン分泌不全のない特発性低身長と同じ性質を持つと考えられています。治験に参加した対象者(低身長の子どもたち)は、GHRP-2を点鼻して、血中の成長ホルモンの分泌が9ng/mLを越える、すなわち病的な成長ホルモン分泌不全がないことが前もって確認されています。対象者約120名を偽薬(プラセボ)投与とGHRP-2低用量投与、高用量投与の3群に分けて、毎日朝食前と就寝前の2回点鼻を行ない、1年間の成長を比較しました。しかし1年間の投与の結果、偽薬(プラセボ)群、低用量群、高用量群の平均成長率はそれぞれ、5.5cm/年、5.2cm/年、5.1cm/年と統計的に全く差がありませんでした。また成長ホルモンによって増加する成長因子であるIGF-Iも、3群間に差がありませんでした。このことは、成長ホルモンの分泌が薬剤の効果により1日に2回程度促進されても、もともとの成長率以上には身長が伸びないことが科学的に証明されたことを示しています(Clinical Pediatric Endocrinology 23:107-114,2014)。
 このようなことから、 GHRP2は検査試薬として用いられていますが、背を伸ばす薬としては認められていません。

3.成長ホルモンを含むスプレー

 成長ホルモンを含むスプレーでは、鼻や口の中に噴霧すると成長ホルモンが体の中に吸収されると説明されています。しかし、成長ホルモンは分子量が約22,000というやや大きな蛋白ですので、鼻や口の粘膜からはほとんど吸収されません。舌下に投与した場合には、多くが唾液と一緒に胃の中に流れて分解されてしまいます。成長ホルモンが効くためには、成長ホルモン治療で注射したときと同じくらいに血中濃度が上がることが必要です。スプレーでたとえ少し血液中に吸収されたとしても、成長ホルモンを注射したときと同じぐらいの血中濃度にするには、注射する量に比べて大量の成長ホルモンを投与することが必要になるので、コストの面でも全く見合わないはずです。実際にスプレーの中の成長ホルモンの濃度は、注射の濃度よりも非常に低かったことがあります。また、先に述べたサプリントと同様、安全性の評価がなされておりません。
 私たち専門家は、質問を受けるごとに上記のような内容を患者さんに説明しています。多くの、患者さんや保護者がこのような誇大広告やそれに類似する宣伝にまどわされることがないように、学会としての意見表明をさせていただきました。

2013年3月29日公表
2023年3月15日改訂
日本小児内分泌学会 理事会