番号 | 疾 患 名 | 疾患状態の程度 |
---|---|---|
1 | 1型糖尿病(若年型糖尿病) | 治療で、インスリン、経口血糖降下薬、IGF-1のうち一つ以上を用いている場合 |
2 | 2型糖尿病(成人型糖尿病) | 同上 |
3 | その他の糖尿病(腎性糖尿を除く。) | 同上 |
平成20年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)
「法制化後の小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究」
分担研究報告書
分担研究者: 杉原茂孝 東京女子医科大学東医療センター 小児科
わが国では,学校検尿によって1型および2型糖尿病患児が毎年発見されている.しかし,そのフォロー状況は,一部の地域を除き十分に把握されていない.全国レベルでの情報を得ることを目的として,小児慢性特定疾患治療研究事業における平成17,18年登録の電子データを中心に解析し,平成13~16年のデータと比較検討した.
糖尿病登録症例は,平成17年は5,856例(新規887例,継続4,644例)であり,平成15~16年に比し増加した. 1型が約79%,2型が18%であった.平成17年から登録病名が細分化され,MODY,他の疾患にともなう糖尿病などが登録されている.
発症年齢の分布は1型では幼児期と10~13歳にピークがある.2型では7~8歳から増加し12~14歳にピークがみられる.
糖尿病コントロール指標としてのHbA1cをみると,1型継続例ではHbA1c7 %未満が20%,9%以上が33%みられた(平成17年).ここ数年,血糖コントロールの改善がみられているとはいえない.
2型継続例では,HbA1c 7%未満が33%,9%以上が38%であった(平成17年).1型,2型ともに約3分の1の症例がコントロール不良(HbA1c 9%以上)であることは重大な問題である.
新規1型登録例でみると,肥満度20%以上の増加はみられていないが,1型継続例では思春期女子で著明に肥満の頻度が高くなる傾向がみられた.
2型継続例では肥満度20%以上約70%を占めた.平成13年~16年登録継続例で肥満は61~67%あり,肥満の改善傾向はみられていない.
1型,2型糖尿病患者数の比率(2型/1型比)を実施主体別にみると,0.00~0.83と幅広く分布した.全体では0.23であった.この現象の意味については,今後の検討課題である.
わが国では,学校検尿の普及によって,1型糖尿病および2型糖尿病患児が毎年発見されている.しかし,そのフォロー状況は,一部の地域を除き,ほとんど把握されていない.特に,2型糖尿病は,東京,横浜などの一部の地域での学校検尿の結果から,肥満の増加に伴い近年急激に増加していることが指摘されている.小児期発症の糖尿病患児が,どのような頻度で発症し,現在どのように治療を受けているか,全国レベルでの調査が必要である.
小児慢性特定疾患治療研究事業の登録が正確に行われ,そのデータを解析することができれば,1型糖尿病および2型糖尿病の実態把握と今後の対策を考える上で非常に有用と考えられる.
小児慢性特定疾患治療研究事業は平成17年に法制化された.法制化前後の登録状況の比較も行った.
平成13年~18年に小児慢性特定疾患治療研究事業(小慢事業)に基づいて,コンピューターに登録された糖尿病の全症例を対象とした.平成17年,18年登録の電子データを中心に解析し,平成13~16年の結果と比較した.データ(個人情報削除済)をMicrosoft Excelを用いて解析した.
特に病型診断,1型,2型など病型の頻度,コントロール状況,肥満の関与など,電子データをもとに解析した.
登録症例数と男女比
糖尿病登録症例は,平成17年は5856例(新規887例,継続4644例),平成18年は5386例(新規690例,継続4539例)であった(表1).平成17年は,15年,16年に比し登録症例が増加している. 性別では,男子(約43%)よりやや女子(約55%)の方が多く,この傾向は平成10年から18年まで変わらない(表2).
表3に入力疾患名および各件数を示す.平成17年は,1型糖尿病(E10.9)が4631例(79.1%),2型糖尿病(E11.9)は1079例(18.4%)であった.糖尿病(E14.9)と登録された症例は28例(0.5%)のみであり,以前に比べ激減している.法制化に伴い2型では薬物治療を行わない軽症例は除外されたが,平成17,18年に2型登録例は減少していない.
平成17年から登録病名が細分化され,MODY,他の疾患にともなう糖尿病などが登録されている.遺伝子異常ではMODY1が15例と最も多い.
他の疾患に伴う糖尿病が13例登録されている(表3).
1型,2型糖尿病症例の発症(診断時)年齢
表4と図1に平成13~18年新規登録1型糖尿病症例の発症(診断時)年齢の分布を示す.1型糖尿病の発症は,従来の報告と同様に幼児期に小さなピークがあり,10~13歳に大きなピークがみられた.
表5と図2に平成13~18年新規登録2型糖尿病症例の発症(診断時)年齢の分布を示す.2型では,7~8歳から増加し,12~14歳にピークがみられた.16~17歳では減少している.
表6に平成13~18年継続登録の1型糖尿病例のHbA1c値の分布を示す.
1型継続例では, HbA1c7.0%未満が平成17年19.8%,18年21.1%であり,HbA1c 9.0%以上の不良例が平成17年33.2%,18年29.1%みられた.
平成13~18年の変動をみると,1型継続例ではHbA1c7.0%未満は,13年20.5%,14年19.5%,15年20.9%,16年20.9%,17年19.8%,18年21.1%とほとんど変化がない.HbA1c9.0%以上の不良例は,13年37.5%,14年35.6%,15年34.7%,16年36.6%,17年33.2%,18年29.1%であった(表6,図3).インスリンアナログ製剤超速効型(平成13年~)と持効型(平成15年~)の発売に伴いこの数年間にインスリン療法の改良が起こっているが,平成13~18年にかけて血糖コントロールの改善がみられているとはいえない.
表7に平成13~18年の継続登録2型糖尿病のHbA1c値の分布を示す.
2型継続例では,HbA1c 7.0%未満は平成17年33.2%,18年38.3%を占めた.しかし,HbA1c 9.0%以上も平成17年38.3%,18年36.7%みられた.法制化に伴い食事運動療法のみの症例が登録から外れたため,HbA1c 6.0%未満の登録症例が半数以下に減少している.平成13~18年にかけて2型糖尿病においても全体的な血糖コントロールの改善はみられていない(表7,図4).
将来の糖尿病性合併症のリスクを考えると,1型,2型ともに約3分の1の症例がHbA1c 9%以上であることは重大な問題である.
1型糖尿病症例の肥満度
5~17歳の新規1型登録例でみると,肥満度20%以上が平成15年13.8%,16年11.6%,17年6.4%であり減少傾向がみられた(表8,図5).
また,近年の生活習慣の変化から1型糖尿病継続例においてもインスリン治療に伴って肥満が増加することが懸念され る.5~17歳の患者について平成17年登録例でみると,1型継続例では肥満度20%以上が12.9%であり.平成18年は11.8%であった.平成13 年~16年登録継続例で肥満は12.8%~14.3%であり,著名な肥満の増加傾向はみられていない(表9).
次に平成15~17年登録1型継続例について,性別年齢別に肥満の頻度を検討すると,男子では15年は15歳(16.7%),16年は12歳(16.8%),16歳(15.1%),17年は17歳(20..0%)に肥満が多かった(表10,図6).女子では,15~17年とも14~17歳で肥満が16.4~24.9%と高頻度にみられた(表10,図7).思春期女子で肥満の頻度が高くなる傾向があり注意が必要であろう.
13~17歳女子について肥満度とHbA1cの関係をみたところ,有意な関連はなかった(図8).肥満を伴う1型糖尿病女子が,必ずしもコントロール不良というわけではないようである.
2型糖尿病は肥満との関連が既に報告されている.表11と図9に平成13~18年継続登録の2型糖尿病患者(5~17歳)の肥満度の分布を示す.肥満度20%以上の例は,13年61.1%,14年66.3%,15年67.0%,16年65.9%,17年68.5%,18年65.2%であった.
継続治療にも関わらず,2型糖尿病患者で肥満の改善はあまりみられていないようである.
表12に 平成17年の全国各実施主体別の1型,2型糖尿病患者数およびその比率(2型/1型比)を示す.東京都では1型糖尿病患者は352人,2型が73人で,2 型/1型比は0.21であった.実施主体別にみると,2型/1型比は0.00~0.83と幅広く分布し,全国合計では0.23であった.2型/1型比 0.00,即ち2型の登録数が0であったのは,豊田市,宮崎氏,豊橋市,倉敷市,函館市,下関市の6市であった.2型/1型比0.83は,新潟市,北九州 市の2市である.
コンピューターに登録された電子データを中心に解析した.平成17年では,1型糖尿病が4,631例,2型糖尿病は1,079例登録されており,膨大かつ貴重なデータといえる(表3).しかし,身長,体重,HbA1cなどの記入漏れや誤記入が一部みられた.無記入の部分が多い項目もあり,今後の改善が望まれる.
発病年齢の記載をみると,1型も2型も16歳以後の発症例が非常に少ない(図2). この16~17歳で実際に発症数が減少することは,他の報告からも考えにくい.16~17歳で登録症例の減少は,受診後の小慢事業への登録手続きの作業の 減少によるものと推測される.この年齢では,小児科ではなく内科を受診する症例が多いと思われる. 16~17歳で2型糖尿病を発症し,その後経口血糖降下薬のみではだめでインスリン治療に移行する症例も多いと思われる.小慢事業は20歳までの医療費の 補助を行うものであるので,16歳以降発症例の登録も望まれる.内科領域への小慢事業の周知も必要と思われる.
糖尿病コントロール指標としてのHbA1cをみると,1型継続例ではHbA1c7 %未満が20%,9%以上が33%みられた(平成17年).ここ数年,血糖コントロールの改善がみられているとはいえない.インスリンアナログ製剤の発売 に伴うインスリン療法の改良が起こっていると思われるが,全体的な血糖コントロールの改善がみられていないのは残念である.
一方,2型継続例では,HbA1c 7%未満が33%,9%以上が38%であった(平成17年).
HbA1c 9%以上では,将来の糖尿病性合併症のリスクが非常に高くなることから,1型,2型ともに約3分の1の症例がコントロール不良(HbA1c 9%以上)であることは重大な問題である.
近年,小児の肥満傾向の増加に伴い,肥満を伴った1型糖尿病の増加が指摘されている.乳幼児期の急速な成長や体重増加に よって,膵β細胞に負荷がかかり過ぎ(オーバーロード),ベータ細胞の破壊が促進されるというベータ細胞破壊加速仮説が唱えられているが,わが国での実態 は不明である.5~17歳の新規1型登録例でみると,肥満度20%以上が17年6.4%であり減少傾向がみられた(表8,図5).しかし,この点は今後も注意して調査する必要がある.
また,近年の生活習慣の変化から1型糖尿病においてもインスリン治療に伴って肥満が増加することが懸念されるが,今回の結果からは,1型糖尿病の患者で肥満の増加が特に進んでいるとはいえない(表9).ただし,思春期女子で肥満の頻度が高くなる傾向が明らかであり(表10,図7),今後注意深くみていく必要があると思われた.
2型継続例では肥満度20%以上が約70%を占めた.平成13年~16年登録継続例で肥満は61~67%あり,肥満の改善傾向はみられていない.肥満の改善が2型糖尿病治療において最も重要であるが,生活習慣の改善による肥満の改善の難しさがうかがえる.
1型,2型糖尿病患者数の比率(2型/1型比)を実施主体別にみると,0.00~0.83と幅広く分布した.全体では 0.23であった.東京都では1型糖尿病患者は352人,2型が73人で,2型/1型比は0.21であった.東京都のかなりの地域をカバーする学校検尿の 結果(東京都予防医学協会年報2008年版)をみると,平成13~19年の検診で発見された2型糖尿病患者数は35人であるのいで,東京都での平成17年 の2型登録数73人はほぼ妥当とも考えられる.1型と2型は全く病因が異なる病気であるので,実施主体別に2型/1型比が大きく異なっても良いのかもしれ ない.しかし,学校検尿の事後措置のシステムの違いによる影響も否定できない.この現象の意味については,今後の検討課題である.
平成17年の法制化後,1型糖尿病の登録患者数は増加した.2型ではHbA1c 6%未満の症例が減少したが,これは法制化に伴い食事・運動療法のみの症例が登録から外れたためと考えられた.ただし,2型糖尿病全体の登録患者数は減少していない.
平成13~18年にかけて全体的な血糖コントロールの改善はみられていない.
1型で著名な肥満の増加傾向はみられていない.ただし,思春期女子で肥満の頻度が高い.
2型継続例で肥満の改善傾向はみられていない.
以上,膨大かつ貴重なデータであり,今後の糖尿病治療の改善のために有用な情報と思われる.
表1 |
表2 |
表3 |
表4 |
図1 |
表5 |
図2 |
表6 |
図3 |
表7 |
図4 |
表8 |
図5 |
表9 |
表10 |
図6 |
図7 |
図8 |
表11 |
図9 |
表12 |