バセドウ病(Graves病)
バセドウ病とは?
びまん性甲状腺腫大(首の甲状腺がびまん性に腫れて大きくなること)、頻脈(脈が速くなること)、眼球突出(眼が出てくること)を3大徴候とする自己免疫性疾患であり、甲状腺機能亢進症を認める疾患の70〜80%を占めています。甲状腺機能亢進症は血液中の甲状腺ホルモンが過剰になって、全身の代謝が亢進し、特有な臨床症状を呈する状態を言います。またバセドウ病は、英語圏ではグレーブス病とも呼ばれます。
びまん性甲状腺腫
バセドウ病の原因は?
甲状腺は脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone : TSH)によって甲状腺ホルモン分泌の調節を受けています(図1)。甲状腺の表面にはTSHが結合する受容体 (TSH受容体) が存在しますが、バセドウ病では、体質の変化により自分の甲状腺を異物とみなして、この受容体に対する自己抗体、いわゆるTSH受容体抗体(TSH receptor antibody : TRAb)が産生されます(図2)。この抗体がTSHの代わりにTSH受容体を過剰に刺激するために、甲状腺ホルモンが必要以上に作られてバセドウ病を発症すると考えられています。甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を高めるホルモンであるため、このホルモンの異常高値によって代謝が異常に活発になることで、心身に様々な影響を及ぼします。
図1. 視床下部—下垂体—甲状腺系の調節
図2. TSH受容体抗体の産生
好発年齢
小児における好発年齢は思春期以降ですが、幼児例も認められます。15歳未満の発症は約5%です。男女比は約1:7で、女児に多く発症します。
症 状
頻脈、体重減少、手指のふるえ(振戦)、発汗増加などの甲状腺ホルモン過剰に伴う症状やびまん性甲状腺腫、眼球突出などの特有の症状があげられます。特に小児では学力低下、身長の伸びの促進、落ち着きのなさなども認められます。表1に症状をまとめます。
全身症状 | 全身倦怠感、疲れ易い、体重減少、身長の伸びの促進 |
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眼症状 | 眼球突出、複視、まぶたの腫れ、目つきがきつい |
首 | 甲状腺腫大 |
循環器症状 | 動悸、息切れ、頻脈、むくみ、不整脈、心不全 |
消化器症状 | 食欲の亢進、慢性の下痢 |
神経・精神症状 | 落ち着きがない、集中力低下、学力低下、情緒不安、不眠 |
皮膚 | 発汗増加、脱毛、かゆみ |
その他 | 筋力低下、脱力感、手足のふるえ(振戦) |
診 断
甲状腺腫大、頻脈、眼球突出、体重減少、手指振戦、発汗増加等の症状からバセドウ病が疑われる場合、血中の甲状腺ホルモン濃度を測定することにより容易に診断できます。血液検査では、甲状腺ホルモンであるフリーT3 (Free T3) とフリーT4 (Free T4) が高値となり、甲状腺刺激ホルモンであるTSHは低値となります。またTSH受容体抗体 (TRAb) は陽性となります。
治 療
バセドウ病の治療は、甲状腺ホルモンの分泌を抑制し正常化することであり、1)内科的治療、2)外科治療、3)放射線治療、の3種類の治療法があります(表2)。小児では内科的治療が第一選択となり、甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬の内服を行います。抗甲状腺薬にはチアマゾール(商品名:メルカゾール)やプロピルチオウラシル(商品名:プロパジール)などがあります。いったん服薬を開始すると1〜2か月で甲状腺機能は正常化することが多いのですが、TSH受容体抗体が消失するまで薬を飲み続ける必要がありますので、完治には長い期間を要します。抗甲状腺薬の副作用としては、5%に皮疹、0.1〜0.2%に白血球の減少や無顆粒球症が生じることがあります。これらの副作用は服用開始から3か月以内に発現することが多く、無顆粒球症が生じたら直ちに服薬を中止し、他の治療法(外科治療など)に切りかえる必要があります。
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家庭・学校での生活
治療開始後、甲状腺機能が改善してくるまでは自宅での安静が必要であり、長時間の入浴も避けます。学校に通う場合でも体育や部活は休みとし、過労やストレスは避ける必要があります。甲状腺機能が正常になれば、日常生活における制限は解除されます。また、抗甲状腺薬を服用している場合には昆布などヨードを多く含む食品は控えるようにします。