思春期早発症

思春期早発症とは?

思春期とは、こどもが成長しおとなになっていく過程で、心身ともに変化する時期のことで、男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしく体が変化し、著しい身長の伸びを認める時期をさしています。この思春期が何をきっかけになって始まるかは現在でもまだ正確にはわかっていませんが、結果として性ホルモンが上昇することにより、性差がはっきりしてきます。

通常、女の子は10歳頃、男の子は12歳頃よりはっきりますが、それが、2〜3年程度早く始まってしまうのが、思春期早発症です。

思春期早発症で問題になることは、

  1. 早期に体が完成してしまうために、一時的に身長が伸びた後、小柄のままで身長が止まってしまう。
  2. 幼い年齢で乳房・陰毛、月経などが出現するために、本人や周囲が戸惑う心理社会的問題が起きる。
  3. まれではあるが、脳などに思春期を進めてしまう原因になる病変がないかを確認する必要がある、

以上の3点です。

症 状

もっとも多いのは脳から精巣・卵巣に命令を送る視床下部・下垂体という場所が、早くに活動を始めてしまう中枢性思春期早発症です。そのうち頭のMRIなどの詳しい検査でもどこにも異常が見つからない、(体質的な)特発性思春期早発症は女性に多く、7歳6ヵ月より前に乳房が発育してくる、8歳より前に陰毛が生えてくる、10歳6ヵ月より前に月経が発来するなどの症状を認めます。

男児の場合には、精巣の大きさが3-4 ml以上になった時を思春期の開始と考えますが、これが9歳より早い場合には要注意です。また10歳より前に陰毛、11歳より前にひげや声変わりを認めます。男児の場合には、特殊な体質をもつお子さん以外でこれらの症状を示すことは健康な子では極めて珍しく、上述した脳の司令塔である視床下部・下垂体の近くに腫瘍などがないかが心配されます。

また、男児でhCGという精巣に命令をするホルモンを作ってしまう腫瘍により男性化が進む、あるいは、女児で生理的順序に従わない、例えば、乳房が膨らむ前か直後に性器出血が起こるような場合には、卵巣が脳からの命令がないのに活動してしまう自律性機能性卵巣嚢腫といった特殊な思春期早発症があることも念頭に置く必要があります。

診 断

日本人の平均と比較して、典型的には2-3年以上早い思春期徴候(男児なら精巣発育、陰毛発生、腋毛、ひげや声変わり、女児なら乳房発育、陰毛発生、月経)が2つ以上存在する、あるいは早期の思春期徴候が1つの場合でも、年齢不相応な身長の著明な伸び、あるいは骨成熟の明らかな進みなどがあることで診断されます(表)。もし、身長が低いにもかかわらず、このような症状が見られたときには、診断基準年齢を1 歳高くして、治療を考えることになります。さらに、最もよくみられる中枢性思春期早発症は、視床下部から下垂体にGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)による命令が送られ、その結果、下垂体が精巣・卵巣を刺激するLH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)が上昇し、男児なら精巣から出るテストステロン(男性ホルモン)、女児なら卵巣から出るエストロゲン(女性ホルモン)の上昇をみて診断されます(図1)。

もし、思春期の徴候が認められているにも関わらず、LH、FSHの上昇が認められない場合、特にLH、FSHの分泌が下がっている場合には、hCG産生腫瘍や自律性機能性卵巣嚢腫などの特殊な思春期早発症を考える必要があります。

特発性中枢性思春期早発症は女児では珍しくありませんが、男児の場合には、発見の困難な病気が隠れていることが多いので、特に注意してください。

表:思春期早発症の主な症状

図1:思春期発来後のホルモンの働き

治 療

思春期早発症で治療を行う目的は、思春期が進まないようにすることで、1. 小柄のうちの体が完成しないようにして、身長が伸びる期間を長くすることで大人になったときの身長が極端に小柄にならないようにする。2. 幼い年齢で男性化、女性化が進み、本人や周囲が精神的負担を与えないようにすることです。もし、腫瘍など思春期を早くしてしまう病気があった場合や、特殊なタイプの早発症の場合には、その病気に対する治療をまず優先します。

よくみられる特発性中枢性思春期早発症では、LH-RHアナログというお薬を使い、通常は注射による治療で、おおむね4週間に1回、病院で薬の注射を行います。このお薬は下垂体から精巣・卵巣を刺激するLH、FSHを抑え、結果的に男性ホルモン、女性ホルモンが抑えられ、思春期の進行が緩徐になり、年齢不相応な月経などの思春期徴候を抑えることができます(図2)。骨の成長も緩徐になり、同時に身長の伸びを悪くすることにもなりますが、体が完成するまでの期間を長くすることにより、成人身長の改善をめざします。

また、実際、診断の手引きを満たす7歳6ヵ月未満の乳房発育を認めても、その後の二次性徴の進みが緩徐で、血液検査でのLH、FSHなどの上昇もはっきりしない場合には、治療が必要ない場合があります。このような児に安易に治療をすると、反対に身長の伸びを悪くする効果が強く出てしまう場合もあります。

LH-RHアナログによる治療は、同じ量をただ4週に1回打ち続ける、という簡単なものではなく、月々の身長、体重の推移、数ヵ月に1回程度のLH、FSH、性ホルモンの変化、骨成熟の変化などを総合して治療量を変えていく必要があります。また、治療中止のタイミングも、年齢的な問題、あとどのくらい伸びる余地があるか、などを総合して決めることになります。

正確な診断のために必要な検査は何か、治療を行う対象かどうか、何を主目的とする治療なのか、などをはっきりさせるため、また、治療を行う場合には月々の投薬量の調整、治療中止のタイミングなど個人差も大きく、経験豊富な内分泌専門医が診ることが望ましい病気です。

表2:LH-RHアナログ治療による効果

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